●ぐるなが人物MAP④

商いをさせてくれた日本酒にも町にも恩返し。
夢は、昔みたいにアゲハチョウ舞う町をつくること。

中村信顕さん

中村信顕さん「人間を取り巻く環境はものすごく変わったねぇ。私が子供の頃には店の前にきれいな川が流れていたし、近くには鬱蒼と木が茂る『お化け屋敷』と呼ばれる建物があった…。夏になれば、蝉はうるさいほど鳴いていたし、辺りをオハグロトンボやオニヤンマがいっぱい飛んでいた。それを、私たちがみんなひっつかまえちゃったんだけどね。ハハハハ」と、懐かしそうに語り出した中村信顕(のぶあき)さん。

北石堂町にある中村酒店のご主人だ。父親がこの地で酒屋を開業したのは大正7年のこと。戦時中の統制で一時休業を余儀なくされたが、昭和28年にふたたび営業をスタートさせた。

通りから一段下がった場所に、格子のある昔ながらのたたずまいを見せる店舗は、古き良き時代の酒屋の趣だ。かつては勤め帰りのサラリーマンが、気軽に立ち寄り一杯ひっかけていった。

中村信顕さん店に足を踏み入れれば、造り酒屋などでよく見かける杉玉が吊るされ、正面には変色した懐かしい酒造メーカーのポスター。一世を風靡した芸者三浦布美子がモデルのマニア垂涎のプレミアものだ。さらに、棚には信濃光、若緑、松尾、高天、七笑など左党にはお馴染みの地酒たちが並んでいる。今でも、時々常連客がやって来て、一杯やりながら世間話に華を咲かせるというのもよくわかる。店には、訪れた人を飾り気なく迎える雰囲気が溢れている。

「酒屋という商売も、先の規制緩和以来、維持するのが困難な状況になっている。今、私はこれまでさんざん世話になった日本酒に、地酒に感謝し、恩返したいという思いで商売を続けているんですよ」とぽつりという。

現在、26軒の酒店と造り酒屋(今井酒造店)とで作る「風の露(しづく)」という酒も、長年酒で商いをしてきた北信の酒店店主たちのこだわりと善意の酒と言ってもいい。牟礼東黒川の契約栽培農家の協力で、酒造好適米・美山錦をメンバーたちが田植えから刈取りまで行い、仕込みにも関わり酒造りへの情熱を結集させる。まさに本物の旨さを求めた特別本醸造酒なのだ。

中村さんの住む商店街からも、パン屋や米屋などいくつもの店が消えた。

しかし最近、善光寺界隈を中心に、遊休店舗を再生させようという動きが活発化しており、その波はこの町にも及んでいる。長く閉ざされていた店が改装され、個性ある書店、味わい深い喫茶店などとして息を吹き返した。

「この町に住む者として、とてもうれしいことだねぇ」と中村さん。

そこで、中村さんも、若い世代にバトンを渡す時に、できるだけ元の美しい町の形で渡したい…と考えて、密かに一つの「作戦」に取り組んでいる。

中村信顕さんそれは、店の横庭スペースにカラタチと山椒の木を植え、アゲハチョウ、クロアゲハを育てていることだ。いずれの植物もアゲハにとっての食草だ。

現在、緑の葉陰にかわいい幼虫の姿が見えるが、蛹の中で越冬し、春の羽化へと向かうプロセスには、まだまだ苦労がつきまとう。

「これも、町への恩返し。自分が子供の頃に捕まえてしまったアゲハチョウやトンボを、もう一度復活させて、町の空をイキイキと飛ばせてやりたい。そんな街にすることが夢かな。ハハハ…」。中村さんの目が照れくさそうに笑った。

中村酒店
◆ 長野県長野市北石堂町1206
◆営業時間 7:00~21:00
◆定休日 日・祭日
◆問い合わせ ☎026-226-7057

長野県長野市南長野北石堂町1206

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