●ぐるなが人物MAP⑤

日本人の暮らしの中に息づく和文化。
畳職人の穏やかな気迫。

枦山利生さん

枦山利生さん私たちの暮らしの中には、さまざまな日本文化が生きている。

「畳」も、世界に類がない日本固有の文化の一つだ。吹き抜けのある空間やウッドデッキ、ガルバリウム鋼板の外壁などが人気を集め、住まいがいかに欧米化しようとも、なぜか「畳」は生きている。

若い夫婦の家に伺っても、狭いながらもちゃんと畳のある和室が備えられていて「やはり、心が落ち着くのは畳の間。疲れた時は、気が付くとここにいます」という答えをよく聞く。それほどまでに、畳が持つ風合い、優しい感触は人を和ませる。

そもそも、畳がいまのようなスタイルに近づいたのは平安時代に入ってからのことらしい。それまでは板床に敷くクッションのようなものだった。室町時代になると書院造りが登場し、部屋全体に畳が敷かれる様式に変わっていったのだ。

長野市鶴賀、はしやま畳店の枦山利生(はしやまとしお)さん(56)は、伝統ある畳を作る職人。平成20年度の技能検定で畳製作一級技能士の資格を取得し、同年の県知事賞も受賞している。

本家の橋山商店は120年あまりの歴史を刻む畳店。父の伊丗次さんがそこで長年修業を積み、現在地の七瀬に店を構えたのは40年ほど前のことだ。しかし、枦山家の長男・利生さんの職人としての足跡は、順調というわけではなかった。

2000年、畳職人の世界に入るまでは、サラリーマン生活を経験後、フリーカメラマン&ライターの道に。地元雑誌やCMの世界で約15年間活躍した。

「当時の私の仕事は、所詮依頼された仕事。クライアントの意向で苦心して書き上げた原稿でも、いとも簡単に直されてしまう。最初思っていた、好きな文章だけを書けばいいというライター生活とはほど遠いものでしたね。それに、決定的に食えなかった、というのがあります」と苦笑する。

枦山利生さんだが、40歳を過ぎて足を踏み入れた職人の世界も、決して甘いものではなかった。通常は職業訓練校に3年間通い、二級受験資格を取得してから検定で合格後、初めてプロとしての道を歩み出す。しかし、枦山さんは訓練校には通わずに実践で技術を身に着けることにした。仕事場には父親とすでに自分より先に職人になっていた2人の弟たちがいた。

今でこそ機械により仕事も随分簡略化されているが、当時はまだ、大曲(おおがね)という直角を出す道具や、大包丁、框包丁、落とし包丁、待ち針、縫い針といった道具で作業をすることも多かった。

コツコツと覚えこむ仕事には根気が必要だ。寡黙な父も仕事には厳しく「遅れてきた職人志願」の長男には容赦なくダメ出しした。眠い目をこすりながら徹夜で反復訓練することもあった。それでも屈しなかったのは、弟たちには負けたくないという強い思いと、結婚し子供が生まれ、家庭を持ったオヤジとしての責任からだった。

技能士の資格を持っていなかった枦山さんは、平成20年にいきなり一級技能士の技能検定に挑戦する。訓練校経験がない場合は10年以上の実務経験が必要だったが、緻密な技が要求され難しいとされる検定に、みごと合格した。

枦山利生さん厳しい経済状況、畳の製作料金も以前と比べるとかなり低く抑えられている。それでも大手企業が展開するアパートからの受注が店の経営を支えている。かつては長野市内に60軒ほどあった畳店も淘汰され、現在は半数に減った。その分、休みも取れないほど忙しくはなっているという。

江戸時代、畳そのものが重要な建築物の要素と見なされ、城や屋敷の改修工事を司(つかさど)る役職を「畳奉行」と呼んだ。いまでも、伝統や格式を重んじる寺社などではその風潮が残る。そんな中、昨年、枦山さんが善光寺大本願御用達の畳職人に決まった。仕事に向き合う真摯な姿勢や畳床の表面を覆うイグサの編み込みの繊細さ、畳べりの縫いの確かさなど製作の技が総合的に評価された結果だろう。

「特別なことはやってません。ただ普通のことを普通にやってるだけのこと」と謙虚に語る枦山さん。
けれど、私たちの暮らしの中で、今なお生き続けている大切な日本文化の継承者であることは間違いない。ひんやりとした空気に包まれた枦山さんの仕事場には、畳職人としての穏やかな気迫がみなぎっている。

はしやま畳店
◆所在地 長野県長野市鶴賀679
◆問い合わせ ☎026−226−7532

長野県長野市鶴賀

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

コメントフィード

トラックバックURL: http://gurunaga.com/wp-trackback.php?p=2318