●珈琲の奈良堂 -
老舗喫茶店に息づく大人たちのロマン。
コーヒーのアロマの中に古き佳き時代が漂っている。

珈琲の奈良堂街の中から「喫茶店」がどんどん消えている。それは何も、地方都市・長野に限ったことではなく、東京や横浜、神戸といった洗練された都会の街でも同じことが言える。

かつては、一日中重厚なクラシック音楽を流している名曲喫茶や、居合わせた人たちが声高らかに合唱するうたごえ喫茶、酒類を一切扱わない純喫茶、恋人たちがデートに使う、ちょっと怪しげな同伴喫茶などいろいろな喫茶店があった。そして、中には3階建てだったり、ゴージャスなソファーで埋め尽くされていたり、巨大な絵画が飾られていたりと、今では考えられないほど大規模でお金がかかっている店もあった。

お得なモーニングサービス目当てに、朝からでかけトースト+ゆで卵+コーヒーに救われた貧乏な若者たちも多かった。好きな文庫本を持って行って読みふけったり、テスト勉強をやったり、友だちと楽しいおしゃべりに夢中になったり…と喫茶店にまつわる思い出は、人それぞれに無限大にふくらむだろう。

珈琲の奈良堂長野市権堂町に昭和22年開店の老舗喫茶店「奈良堂」がある。小ぢんまりした2階建て、外壁にはバラのつるが絡まり、古い佇まいは見るからに郷愁を誘う。ガラスの扉を開けて入ると、その瞬間からプーンと芳醇なコーヒー豆の匂い。

やや薄暗い1階は常連客が座っていることが多いカウンターと狭いボックス席。壁には、時折催される絵画展や写真展の作品が飾られている。

軋む階段を上る2階は意外に広く、古風なソファーが配されていて、ゆったりとくつろぐには最高の空間。壁にあるパリの大地図も妙にロマンをくすぐる。

奈良堂は、かつての経営者で平成23年に亡くなった河原八重子さんが戦後間もなく開いた店で、当時は1階が画材店で、喫茶はアトリエ兼ギャラリーだった2階の一角を使ったのだという。その頃は画学生や文学青年たちが集まり、おいしいコーヒーを味わい芸術の話に花を咲かせた。まさに、ハイカラな夢のような場所だったはずだ。

河原さんはシャンソン好きでもあったことから、店の周りにバラが花開く5月頃に「奈良堂友の会」のメンバーたちがシャンソンコンサートを今でも開く。名物ママさんだっただけに、いつまでもママさんを懐かしみ、奈良堂を愛する人は多いのだ。

そんな店を守るのが、現店長の長峰孝春さん。河原さんと共に店と36年間も関わり続け、最後は彼が奈良堂を切り盛りしてきた。「いや、スタッフは空気みたいなもの。存在感なんてものはなくてもいいんです。店はお客さんたちのものだから」。その姿勢が愛されて、奈良堂には古き佳き喫茶店の魅力に惹かれてやって来る熱いファンが多い。シャンソン歌手の佐々木秀美さんや落語家の昔々亭桃太郎さんらもその中の一人だ。

珈琲の奈良堂ブレンドコーヒー、アイスコーヒー、デミタス、カフェオレ、ミルクは500円、トルコティー、イブニングティー、カプチーノは600円。ケーキにもこだわりがあり、プラリネショコラ、抹茶ケーキ熊笹入りなどは上品な甘さが好評だ。

2階で心地よい音楽を響かせるオーディオも、店の客で真空管アンプやスピーカーを自作する松本正典さんの作品。真空管アンプは、トランジスタが普及する前に主流だった増幅器で、その深い音質は心に沁みる。歴史ある喫茶店にはとてもお似合いに思える。

初めて訪れてもほっと心解かれるのは、そんな風にここの客同士が愛する店を支えている、その空気が満ちているからかもしれない。

珈琲の奈良堂
◆所在地 長野県長野市鶴賀権堂町2222
◆営業時間 11:00~22:00(日・祭日~21:00)
◆問い合わせ ☎026-235-1717

長野県長野市鶴賀権堂町2222

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

コメントフィード

トラックバックURL: http://gurunaga.com/wp-trackback.php?p=4139